雑草魂よ、どこまでも
スポーツ記事で頼りがちな言い回しに「雑草」という言葉があります。例えばエリート育ちに対する「雑草育ち」といった形です。
「でも、どんな草にも名前がある。雑草という草はありません」と大学の指導者に投げかけられ、返事に窮した記憶があります。
そんなやりとりを思い出したのは、大塚製薬の2年目、女子マラソンの小林香菜選手の経歴を見たせいでした。今年1月の大阪国際女子で日本人トップの2位となり、9月に東京で開かれる世界選手権の日本代表に選ばれました。
目につくのは早大時代に体育会ではなく、同好会に所属していたことです。指導者はおらず、ホノルルマラソン完走を目指して週1回皇居周辺を走るのが活動だったそうです。
エリートランナーとは無縁の環境ですが、それを遠回りとか、無駄とは考えたくありません。
中学時代に全国都道府県対抗女子駅伝に出場した経験がありますが、高校でけがを重ねたこともあり、大学では陸上以外の進路を考えていたそうです。
しかし、これが安易に大人がひくレールを走るのではなく、自己に問い続け、熟考する時間となったのでしょう。本当は何がしたいのか、得意なのは何か。そこから選んだのが実業団でのマラソン挑戦でした。
自らつてを探し、売り込んできた小林選手の内面を見通して、同好会出身という異例の入部を受け入れた名門実業団の眼力も、評価したいところです。
自立と自律を秘めた成長の物語はやっぱり、「雑草魂」と呼びたくなります。
朝日新聞論説委員 西山良太郎