マリニンの失速
優勝候補が自分を見失い敗れる。頂点を競う五輪でも、そんな場面は珍しくありません。けれど、王者のこれほどの失速は記憶にありません。男子フィギュアスケートのイリア・マリニン選手のことです。
17歳で史上初の4回転半ジャンプを成功させた早熟の天才は、2023年12月から負け知らず。6種類7本の4回転ジャンプを操る跳躍力と技術で、昨年12月にはフリーで歴代世界最高点を記録し、絶対的な本命としてミラノ・コルティナ五輪を迎えました。
しかし、ショートプログラムは首位だったものの、フリーの2本目のジャンプが1回転に終わる失敗。その後も2度転倒し、結局フリーは15位、トータル8位の惨敗でした。
「人生のトラウマ的な瞬間が、あまりにも多くの悲観的な思考が、頭の中にあふれ出て、僕では制御できなかった」とスタート前の心理を打ち明けましたが、五輪初出場とはいえ、国際大会でのたくましさをみれば、いま一つ胸に落ちません。なぜ、そこまで精神的に追い込まれたのか。
思い当たったのは、男子の前に行われた団体です。
米国は優勝したものの、他選手の得点が伸び悩み、彼はチームのため力を振り絞らざるを得ませんでした。それが心理的にも肉体的にもスタミナを削った可能性があります。
個人競技の団体戦は個人戦の後に行うのが一般的ですが、フィギュアは逆。史上まれにみる逆転劇の演出は日程かもしれません。
それでも、団体を口実にしなかった彼の巻き返しに期待したくなりました。
朝日新聞論説委員 西山良太郎
